走り抜けていく息子/まいにち変拍子#4

リレーの選手に選ばれた息子。
バトンを受け取る。走り出す。
「行け行けー!」と応援しながら、同時に「行かないで」と心の中で思っていた。

生まれる前はずっと私のお腹の中にいた。
生まれた後だってずっと、私の腕の中にいた。
歩く時は必ず手を繋いでいた。
走ったってすぐに追いついたし、転べば私の胸で泣いていた。
私がいなければ、食べることも寝ることも、なにも出来なかったのに。
今では、自分で歩いて学校に行き、自分で授業を受けてテストを受けて、自分でいろんなことを体験して判断して、実行する。

目の前を走り抜けていく息子の目には、
当然、私のことなんて映っていない。
彼の目には、目の前に続くまっすぐな道だけが見えている。
その道を、脚と腕を思いっきり動かして、走っていく。
そのスピード。
もう、追いつくことはできない。
行かないで。そんなに早く行かないで。
あんまり早く大きくならないで。

バトンを渡す。ホッとする。
一瞬、目が合った。
はにかんで、すぐに目をそらされたけれど、
この一瞬があるから、私は一生、この子のために生きられると思った。